今まで深い海の底のように無音だった世界に、
突然それらの声が浮き上がり、彼の中に溢れた。同時に様々な音が流れ込んでくる。(中略)
それらが混在して低く響く都市そのものの音。
気づいたら世界は音に満ちていた。
引用元: 『小説・秒速5センチメートル』 新海誠
映画が終わった時、本当にこんな不思議な感覚に陥りました。
昨日10月15日、東京国立博物館であったイベント「博物館で野外シネマ」でのことです。
「博物館で野外シネマ」始まる前にスクリーン横から撮った一枚。人いっぱいでした。 pic.twitter.com/n81OLrGeQK
— おざき たいすけ (@ozata92) 2016年10月15日
◆なんと集まったのは5000人。予想以上!
博物館の建物前に大きなスクリーンを立てて、野外で映画を楽しもうというイベント。
以前の開催時から気になっていたのですが、今回は大好きな「秒速5センチメートル」を上映とのこと。
行くっきゃない。ということで、初参加してきました。
現地に着いて思ったのですが、それはもう、人が多い。
入場口からすでに、入館チケットを買う人の波。
1000席もあるはずの座席には座れることなく、会場前の芝生やアスファルトにまで、
所狭しと敷かれたレジャーシート。
屋台ではインドカレーやロコモコ丼が売っていて、長蛇の列を成しています。
そうか。花火大会のときのように、もっと早く来て場所取りしなきゃいけなかったんだ。
当たり前のことに、その時ようやく気づきます。
定刻になると、スクリーン前にスタッフさんが司会で登場。
「東京国立博物館に初めて来た人は?」「はーい!」なんて、観客とやり取りをしながら進みます。
この賑やかな感じ、お祭りっぽい。
◆映画がはじまります…
ひとしきりの前説が終わると、上映がはじまります。
皆驚いていたのは、会場の照明が消えた瞬間。
博物館の建物を照らしていた灯り、周辺の街灯、屋台の電灯もほとんどが消え、
スクリーンだけが浮かび上がります。
それまで賑やかだった声もいつの間にか消え、代わりに映画の音だけが広がって。
立ち見客でさえ固唾を呑んで、揃って前方を見ています。
広い広い映画館が、いつの間にか出来上がっていました。
時々遠くから入ってくる、電車の音か、車の音か。
都市独特の、ほんとうに低く響く音。
空には飛行機が点滅しながら飛んでいて、
あれ、でも星明かりも見えるんだな、なんて思って。
そんな、ハコのようでハコでない、不思議な空間が作られていました。
◆過去に何度も見た、大好きなシーンで感じたこと
最後は、主人公とヒロインの静かなモノローグ。
そして、山崎まさよし「One more time,One more chance」が流れます。
モノローグも歌声も、初めて聴く声のような、不思議な新鮮味。
そして、スクリーンを見守る人たちの、声なき気配だけが感じられます。
そうか。いまこの時、
5000人が東京の空の下に集まって、他の光や音に邪魔されることなく、見守っている。
ふと俯瞰した気持ちになって、
ああ、奇跡のようだな、なんて思ったのでした。
やがて、曲が終わって、
エンドロールが、ピアノの音とともに、流れ始めます。
「気づいたら世界は音に満ちていた」という、びったりの表現を、思い出しました。
音と光が、フェードをかけたかのように、徐々に戻ってきます。
ああそうだ、これが東京の、5000人分の音と光、喧騒だ。
気づけば、イベントは終わっていたのでした。
「秒速5センチメートル」野外上映終わり。エンドロールが流れ始めて、上映中の静けさから、徐々に喧騒や街灯が戻ってくる。不思議な感覚です。
— おざき たいすけ (@ozata92) 2016年10月15日
◆この作品を5000人で集まって見るなんて、やっぱり奇跡だと思う。
やっぱり、奇跡だと思うのです。
10年前の作品、それも小さな映画館で流れていたはずの作品。
部屋でひとり見るような、ある意味でジメジメした作品。
大衆受けする作品じゃない気もします。
それを、感想はどうあれ、5000人が集まって見ている。
それも、東京の夜空の下で、静かに。
「君の名は。」効果で、新海監督作品のファンが増えたのか、
いままでいたファンが、このイベントで目に見える形になったのか、わかりません。
でも、ほんとうに不思議な空間を体験できたイベントでした。
この先、時々思い出すんだろうなあ。とても印象的な一夜になりました。
「秒速5センチメートル」の野外上映イベント、おしまい。5000人が野外でスクリーンを見守る1時間…奇跡のようでした。 pic.twitter.com/OQjP91R9pQ
— おざき たいすけ (@ozata92) 2016年10月15日