こんにちは。
私はこの一年弱(2018年5月~2019年3月)、日本劇作家協会主催の「戯曲セミナー」を受講しました。
先日無事修了することができたので、その感想や考えていることを書き残しておきます。
受講を検討している方の、参考になれば幸いです。
そもそもお前は何者だ
私は演劇を見たり、イベント・公演の企画を立てたりするのが好きな26歳(執筆当時)の男です。
本業は会社員。システムエンジニアです。余暇と給料を切り崩し、演劇を見たり作ったりしています。
なぜ通おうと思ったのか?
2018年春の話になります。当時の私は「企画を立てる人」でした。
自宅にあるロボット(Pepper)を面白いことに使いたくて、
以前からイベントを企画してきたのですが、
ふと「ロボットで長編演劇を作ろう!」と思い立ちます。
しかし、演劇の作り方はほとんどわかっておらず、知り合いの劇団に企画を持っていき、
上演までの工程(ロボット操演と庶務以外)の多くをお任せしていました。
ロボット演劇『伝信戦隊バイバイレンジャー ~機械帝国の逆恨み~』閉幕しました。まだ終わった気がしていないのですが…たくさんのお客様、素敵なキャストや頼りになるスタッフに囲まれ、とても幸せな時間でした。企画してよかったです。次も頑張ります!ありがとうございました。#バイバイレンジャー pic.twitter.com/EHouyDKpXK
— おざき たいすけ (@ozata92) 2018年5月1日
公演を終え、満足感でいっぱいになっていた時、考えたのは次のようなことでした。
- 企画立案だけでなく、もっと明確な形で演劇づくりに携わりたい
- 企画者として、企画の詳細をもっとわかりやすく伝えられるようになりたい
- ロボットユーザーとして、自分の言葉でダイレクトにロボットの面白さを伝えてみたい
それならば、まずは脚本を書けるようになりたい!と単純に考え、えいやっと申し込んだのでした。
ちなみに、申込には「受講料20万円の一括払い」というハードルもあり、
「貯金して来年受講でいいかな?」とも考えたのですが、
一年をもやもやと過ごしてしまう気がしたので、思い切りました。
講義はどんなことをやったのか?
講義に連続性はあまりなく、毎週様々な劇作家が講師となる形式。
たった一回きりの方もいれば、飛び石で複数回担当される方もいて、
その内容は実に様々です。たとえば…
- 戯曲とはなにか?どう着想し、書き始めればいいのか?
- 実際にセリフやト書きを書く、グループワーク
- 演劇のジャンルや歴史、時代ごとの流行について
- 既成戯曲や過去の上演作品を分析し、作り方を考える
- 講師自身の演劇体験と、今考えていること
それぞれの詳細については、残念ながらあまり語ることが出来ません。
なぜなら、私がノートをマジメに取らなかったから。
毎週きっちりと記録している方も多かったように思いますが、私はある時から諦めました。
モチベーションが下がったのではありません。
ノートを詳細にとる受講スタイルが向かない講座であると思ったからです。
少なくとも私にとっては。
先週の講師が言っていたことと、今週の講師が言っていることが、
示し合わせたかというくらいに真逆ということもありました。
ある時、ふと思ったのです。
戯曲を書くにあたり、その立ち上げ方や考え方は人によって異なるんだ。
目の前の講師の言葉は、その一例として示されているに過ぎず、
自分が今やるべきは、自分にあった考え方を直感的に選び、書き方を見つけることだと。
そう思うと、ノートには刺さった言葉や共感できたポイントしか書き残さなくなりました。
セミナーに通うことで得たものは?
講座を含め「戯曲セミナー」という場に通うことで得たものは多いですが、
「そこで会う方々とどんなやりとりができるか」という点に収束した気がします。
この一言だと抽象的すぎるので少し細分化すると、以下の4点が大きいでしょうか。
- 演劇のスタイルや考え方の多様さに気づけた
- 並走できる仲間や先輩と出会えた
- 書き上げるまでの苦悩と達成感を体験できた
- 演劇に関する情報の集め方がわかった
以下にそれぞれの詳細を書きます。
1. 演劇のスタイルや考え方の多様さに気づけた
私にとって、講座の中でも特に有用だったのは、実際に考え、手を動かすものでした。
たとえば…
- シチュエーションから連想されるセリフを書いて発表(中屋敷法仁さん)
- 戯曲の「場所」「背景」「問題」を考える宿題と講評(平田オリザさん)
- 短編戯曲のプロットを考える夏休みの宿題と、全員分の講評の配布(長谷基弘さん他)
いずれも与えられる課題の前提は同じなのですが、生まれてくる回答の多様さに驚きます。
「どうやったらそんな面白いことを思いつくんだ!」と。
あるいは、自分の回答を同期や講師に渡してコメントをもらうことで、
「そういう伝わり方になるのか」と考えることもあります。
自分や他人の書き方のクセや好き嫌いに気づくこともあり、面白いです。
5月末から日本劇作家協会の「戯曲セミナー」に参加しています。先日の第2回目、短いセリフとト書きを書いたのですが、他の回答が自分には絶対に書けないものばかりで圧倒されました。役者や演出に依存しない、過不足ない書き方を心がけよう。恥ずかしい学習記録をここに。今後も楽しみ!#戯曲セミナー pic.twitter.com/whOtWlcoJW
— おざき たいすけ (@ozata92) 2018年6月8日
2. 並走する仲間と出会えた
受講生の中にはすでに精力的に活動されている俳優や劇作家も多く、
同期の活躍が見られる公演には、意識的に足を運びました。
そういった作品は「俺も頑張ろう!」とポジティブに劇場を後にすることが多かったですし、
(先述したことに繋がりますが)今までに経験のないジャンルや作風に触れる、いい機会でした。
また、執筆の進捗共有ができたことにも、大きな意義がありました。
有志で書きかけを回し読みしてコメントする会をやったり
(企画してくれた人ありがとう)、
Twitterに進捗をつぶやくと、同期からリアクションが返ってきて少し安心できたり
(進捗ダメですってつぶやいてた人、僕も同じでした)。
作家は本来孤独な戦いですが、受講中「戯曲を書く」という目標ひとつで、
多くの人と思いを共有し、意見を交換できたのはよかったです。
「お互い頑張りましょう!」と励ましてくださった先輩、
作品を通じて励まされた先輩方にも感謝するばかりです。
これからも、そんな相互関係でいられる方が多くいるといいなと思っています。
昨晩、#戯曲セミナー の同期有志と書きかけをディスカッションする会をやりました。一人で漠然と悩む時期、進捗や気になることが共有できてよかったです。終わってから同い年の男と呑みに行ったけれど、最終的に深夜のファミレスで売れない芸人の打ち合わせみたいになってた。これもこれで…いいのか?
— おざき たいすけ (@ozata92) 2019年1月19日
3. 書き上げるまでの苦悩と達成感を体験できた
受講期間中、私が書き上げた戯曲は短編1本・長編1本ですが、
構想から脱稿までの流れを体験できたのはよかったです。
特に「長編戯曲を書き上げて提出する」という最終課題にはかなり苦戦したのですが、
これにこそ、最も大きな意味があったように思います。
同期が着々とプロットを書き、第一稿を書き上げ、推敲を重ねている中、
私の進捗は惨憺たるものでした。
「絶対に書いて提出しますよ!」と豪語していたにもかかわらず、
〆切まで一ヶ月を切ってもプロットすら書けなかったので、本当に焦っていたのですが、
追い詰められた結果、自分なりに様々な知見が得られたのも確かです。
- 自分がいま伝えたいことや、好きなもの、過去の経験を徹底的に考えられた
- 「書くため」に最適な生活リズムを見つけた
- どうすれば筆が乗りやすいのか、筆が止まった時の対処法に気づいた
ちょっと精神論っぽいですが、自省しながら考えを整理する時間にもなったのはよかったですし、
生活のなかの何気ない体験が「これは作品に使えるのでは?」なんて見え方もしてきて面白かったなと。
4. 演劇に関する情報の集め方がわかった
受講の副産物ですが、演劇の情報が以前より集めやすくなったように思います。
期間中は特に、演劇への興味関心が高まっていたこともあり、アンテナが張りやすかったです。
事務局からの案内や、同期や先輩から受ける公演案内のような、直接的なものももちろんですが、
演劇のイベントで知り合った方をTwitterでフォローしたら、面白い公演と出会うこともありました。
演劇に関する情報源や参考書籍もたくさん知ることができたので、今後も困った時に役立ちそうです。
どのような人がこのセミナーに向いているか?
見出しをつけておきながら、こんなことは私には決められないのですが、
個人的に「こんな人はセミナーに向いているよ!」と思う人についてです。
(私もそうだったから、という前提に基づいた一意見です)
- 書きたいことや、自分に足りないものが明確な人
- 演劇について意見を交換したり、共有するのが好きな人
- 何か見つけてやるという強い意志、意地のある人
どれかひとつでもあてはまる自覚があれば、「向いている」でいいと思います。
…はい、いよいよ自己啓発、ステルスマーケティングっぽい書きぶりになってきました。
逆に、全部あてはまる!って方は、少し冷静になることをおすすめします。
自信をどこかで砕かれたり、ストレスを感じる瞬間があるかもしれません。
おそらく、ひとりでひたすら書いていたほうが効率がいいです。
それと、前項の「セミナーに通うことで得たものは?」でも書いたような、
一見、寄り道にも思える体験を「楽しそう」と思える人にこそ、勧めたいです。
そんなすぐに効果が現れるものじゃないです。結果も出せません。
一年終わっても、当初の目標は何も果たせてないかもしれません。
(私もそうでした。最後の最後に、そうして憂鬱そうな同期もいました。頑張って!)
それでも「演劇って難しいけど、やっぱり面白い!」って思える体験が、
一年の間にたくさんできるはずです。きっと。
もう少し悩みたい人に、ほかの情報はないか?
この記事、3月に書き始めたつもりが、書き上がりが5月になってしまったので、
2019年度の開講までは時間がないのですが…
受講申込にあたり「もう少し考えたい」という方に、雰囲気を知るための、おまけのような情報です。
※日本劇作家協会のHPにも、もちろんインタビュー記事や動画はありますが、
もうご覧になったでしょうし、ますます宣伝っぽくなるので割愛します。
Twitterハッシュタグ #戯曲セミナー
手前味噌ですが、個人的にTwitterに受講記録を残していました。
この記事にもツイートを埋め込んでますが、他にもいくつか。
同期の間ではあまり使われなかったハッシュタグですし、
講義ごとに書いていたわけではないので、執筆時点では私の日記みたいになってますね…
(ハッシュタグを省いてつぶやいた、たわいない感想もいくつか。)
どのくらい役に立つかわかりませんが、ご参考まで。
遡ると、他の方がつぶやいた、過去の戯曲セミナーの様子も垣間見ることが出来ます。
最後に、この記事を書いたきっかけ
あえて最後に持ってきましたが、この記事を書いた動機について。
「戯曲セミナー、ネットの情報が少なすぎ!」ってことです。
Googleで「戯曲セミナー」と検索した結果の上位には、
日本劇作家協会のサイトと、過去の受講生のブログ記事が少しだけ(執筆当時)。
私が受講を検討する際にも、検索で情報を探したのですが、
「戯曲セミナー 評判」でもう少し絞ってみると、10年前の感想だったりします。
(記事タイトルの参考にしました。ご容赦ください。)
毎年50人くらい参加していて、これだけSNSが発達してる2019年、
もっといろんな意見と、鮮度の高い情報が多くてもいい気がするのですが…
いろんな感想を持っている人がいるはずなのに、それが外に発信されず、探している人に届かない。
それが異様に悔しくて、受講を悩んでいた自分に渡すつもりで、この記事を書きました。
戯曲セミナー同期や先輩の皆様、
ここまで読んでいただけたなら、賛否両論があると思います。
改稿の参考にしたく、ぜひ意見をお聞かせください。
受講を迷っている皆様、少しでも参考になれば幸いです。
(一年前の私へ、キミの選択は間違ってないぞ!)